凡 例

凡例

凡 例  一 知床 西地シヤリ領從運上屋廿一り十九丁 從箱舘西海岸三百十七里半とはシリイトコの轉語なり シ
リは島また國の譯也 イトコは終る 果 また川の源に當る也 是國の果と
譯す 故に北蝦夷島のシンノシレトコを指てタライカ人バツテキと
云り 則バツテキは盡るに當る 其利是も同じ 此岬クナシリ
エトロフと鼎足に峙し 潮勢逆怒し 山峻く崖嶮なる故土人も
審せし者少く 和人未だ是を廻りし者なし カムイエハの嚴洞 チヤラ
セナイの瀑布 アバツテウシの柱石 其奇名を傳ふのミなれば 余
安政五戊午の初夏 根諸にて其行を謀り シベツ コイトイ イヂヤン チ
ウルイ クンネベツ サキムイ ウエンベツ 是をメナシ七ヶ所と云 七ヶ所の川々を一見し

支別志二巻 女奈之志二巻を著し 知床を巡檢して知床志三巻を
書き 函舘府に納め置 今爰に其七巻を摘抄し知床志の名を
冠らしむ 其書振納紗布日誌に續て是又地名の譯を審にし
聊其草木等ニ相當るべき漢名等ニ引用書の本文少しヅヽを抄
擧し置もの也 志士其地を審にせんと欲し給ふの意有らば原
稿七冊を熟閲なし給ハん事を
萬延元庚申の窮臘於下谷二長町臨機応變の小窓下       源の弘誌